栄養士の活動
国立ハンセン病療養所は、全国に13施設あり、当園の入所者数は115名、平均年齢85.8歳(10月末現在)です。国の隔離政策によって家族や身内との離縁を余儀なくされた入所者は、9割以上の方が10代~20代に入所され、人生の大半を園で生活されています。
当園では、入所者が自分らしく生き、園を挙げて入所者の人生に寄り添えるように、人生サポートチーム(エンド・オブ・ライフケア)として活動しています。その活動の中で、県の里帰り事業に体調不良で参加できなかった入所者に「郷土料理」を提供したことをきっかけに、平成27年4月より食事の一環として郷土料理を提供することにしました。その取り組みの一部をハンセン病コ・メディカル学術集会にて発表したところ、平成28年度の国立ハンセン病治療研究の推薦依頼を受け、当園が代表施設となり、13園で共同研究を開始する運びとなりました。
共同研究を開始するにあたり、郷土料理提供の現状を確認したところ、13施設中5施設が郷土料理を提供していませんでした。このような状況の中で、多くの入所者に「ふるさとの味」や「郷土料理の懐かしさ」を味わって頂くために、各施設で郷土料理提供の取り組みを開始することにしました。また、提供した各施設の郷土料理をレシピ集として製本し、そのレシピ集を参考に、今後も継続して郷土料理提供の取り組みを行うことを目的に、共同研究を開始しました。
この研究を実施するにあたり、5月12日、13日に、当園で、会議を開催し、13施設中10施設の栄養士と調理師が22名参加しました。研究期間と方法、ワークシートの内容は下記の通りです。
共同研究の説明の後は、ワークシートを使用しながら、岡山県の郷土料理を作って試食しました。献立内容は、下記の通りです。①は、岡山県で有名な「祭り寿司」で、②の「どどめせ」は①の元祖とも言われ、当園の所在地でもある瀬戸内市発祥の郷土料理です。③~⑤は、岡山県の特産物を使用した料理です。
この実習を通して、郷土料理の歴史を知ることができ、試食することで、時代の移り変わりを感じることが出来たのではないのかと思います。
また、持参して頂いた各県の郷土料理、郷土菓子の由来や作り方を施設毎に紹介しました。実際に普段の食事で提供しているものを説明される施設もあり、試食をすることで、郷土料理の歴史だけでなく、施設での特色を学ぶことが出来ました。共同研究に調理師も参加することで、日頃、調理で工夫されていることなど、情報交換が出来る良い機会となりました。
共同研究を各施設で開始し、3ヶ月毎に郷土料理のワークシートを当園に提出してもらい、進捗状況を把握しています。この取り組みを通して、「昔の生活」や「ふるさと」を思い出されたエピソードが書かれた奄美和光園のワークシートを紹介します。
5月に奄美で養殖された生のモズクを提供したところ、「昔は、私も海にモズクを取りに行っていたよ。この時期は、その頃を思い出すわ。季節に合わせて地元の物を取り入れてくれるから嬉しい。」と書かれていました。
このように、郷土料理の提供は、「ふるさとの味」や「郷土の懐かしさ」だけではなく、食事の期待感や食事満足度、喫食率の向上にも繋がり、コミュニケーションツールの一つにもなっています。今後も、13園の栄養管理室が情報交換をしながら、入所者の皆様に美味しい料理を提供していきたいと思います。
国立療養所邑久光明園 川上佳子