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栄養士の活動

減塩食を美味し
はじめに
 当センターの病院食の種類は80パターンあり、全ての食事において塩分設定が0g、3g、5g、6g、7~10gと5段階に分類されており、個々の状況に応じた塩分対応が可能です。病院食には、様々な制約があるため、一般的に「美味しくない」といった負のイメージをもたれることが多いようです。当センターでも状況は同様で、上記のとおり多種にわたる栄養上の制度管理を行っている中、1食500食以上で年中無休の調理作業、1食の食材料費200円台といった予算も加味した上で1日あたりの勤務者数10名の調理師が調理作業にあたっているのが現状です。このような制約の中において臨床栄養部が目指すものは、患者様が食事を全量摂取した上で栄養治療につなげられることであると考え、2005年より患者様が満足する食事について検討を重ねてきました。今回その取り組みと現在までの活動内容を紹介します。
病院食改良にむけての取り組み
 限られた調味料の使用でいかに見た目に食欲がわき、おいしく食べられるかを第一と考え、従来の食事から以下の内容の変更を行いました。
・従来1食あたり副食の品数が3品であったものを多彩な調理法を盛り込んだ上で4もしくは5品としました。

・季節感を出すために行事食を多く取り入れました。
・独自で考案して作成した『八方だし』を活用しました。
・食材の飾り切りを行い、彩りや形を考慮し1つ1つ盛り付け、見た目の配慮を行いました。
・ほぼ全ての食種に対して既製品を減らし、手作りに心がけました。
・限られた予算の中でも品質の高い食材を納入するために納入業者の教育や選定をしました。
 これらの取り組みを基に調理師長が献立立案をし、栄養士が栄養価計算を行う共同作業により1食あたり塩分2g未満に抑えた京懐石風の減塩食が出来あがりました。少ない調味料ながらも食材の持ち味が充分に活かされた食事内容となりました。
取り組んだ結果
 入院患者様の喫食率が上昇し、患者様からの病院食に対して美味しいと言う声や食札や病棟意見箱を通じて感謝のメッセージを多く受けるようになりました。
 院内で行った病院食や行事食に対するアンケート結果において内容、味、盛りつけ方、季節感の項目において8割近くが満足という回答を得ました。

 退院後に病院食の味や量などを参考にできるかという質問に対し、難しいとの回答が26%あり、患者様が退院後も減塩を実行する手段の検討が必要でした。そこでその手段の一つとして患者様および患者様家族に対する調理講習会を開催するようにしました。
2010年9月に始まってから、約3年経過した現在までに20回行っています。内容は正月、花見などの季節料理を調理師実演のもとで患者様が体験する形です。講習会後のアンケートで講習会参加者の半数以上が複数回参加されており、結果からも講習会が好評と言えます。また、講習会終了後に6割近くが薄味に対する減塩上の問題点がほぼ解決したと回答していました。複数回参加された方の9割では、日常の塩分摂取量が減っていると答えています。講習会での調理において主流となっている『八方だしの利用』『調味料の計量』『だしをとる』という項目を講習会終了後に継続して実践されていており、講習会の参加が自宅での減塩実施につながったと言えます。
さらに、講習会に参加された方から調味料を計量することで醤油の使用量が減り、血圧が下がったという意見もあり、減塩が血圧の改善につながると実感しています。
病院食を院外へ
 病院食を院外へ広めるためにデジタル化したレシピをインターネット上で配信するシステムやコンベクションオーブンのプログラムと連動される“G-クッキングシステム”を開発しました。インターネット上のレシピをもとに病院食を調理でき、“G-クッキングシステム”の利用で社員食堂や百貨店および弁当業者の弁当販売で病院食を調理しなくても食べることが可能となり、国循の病院食がより身近なものとなりました。

 また、2012年12月11日に発売された当センターレシピ本(かるしおレシピ)の出版部数が25万冊を超え、続けて2013年12月13日に第2版(続かるしおレシピ)、2014年4月10日にムック版を出版しました。その他の月刊誌にもレシピを掲載しています。
栄養指導の場でレシピを毎日活用している当センターに外来通院している高血圧症の患者様で血圧が改善し、降圧薬の服用がなくなった症例を数例経験しています。ご当地食材を使った、一般の方向けかるしおレシピコンテスト『S-1g(エス・ワン・グランプリ)大会』が2014年1月23日に開催されましたが、全国から355件ものレシピが寄せられました。この応募の数や参加者の賞にかける意気込みから当センター病院食のとりくみが減塩の必要性を広く浸透させていると言うことができるでしょう。
おわりに
 当センターの食事は、美味しい病院食というだけにとどまらず循環器疾患予防及び治療につながると言えます。今後も減塩を含めた循環器病制圧を目指した食事が一般家庭に深く実践できるよう調理師、医師、管理栄養士を含めた臨床栄養部として普及に努めていきたいと考えています。

                             国立循環器病研究センター 上ノ町かおり